3-④.青年期

半生

『俺は彼女をつくる!』 仲間の一人が、高らかに宣言した。

やはり、思春期の男子生徒における『一大目標』はこれだろう。ましてや『男子校』だ。その難易度は『共学』に比べれば、大きく跳ね上がる。その日以来、彼は他校の女子生徒と知り合う度に『無謀』な告白を繰り返した。碌に時間も掛けぬまま、唐突に交際を申し出るのだ。当然、撃沈して、見事に『連敗』の山を積み上げた。

そんな彼を尻目に、当時の自分は、まったく『恋愛』に疎かった。と、言うか『仲間内』での日々が楽し過ぎて『興味』が無かった。だが、不思議なもので、そんな無欲が引き寄せるのか『チャンス』の女神は我に舞い降りる。

 

柔道部時代、他校へ出稽古の際、そこのマネージャーと懇意になる。無頓着の自分は、暑さのあまり『トランクス』一枚でウェイトトレーニングに励んでいた。その『間抜け』な姿が『刺さった』らしい。世の中、何が幸いするか、分かったもんじゃない。ある年末、その彼女から『年賀状』が届く。内容自体は無難だが、相当の長文だった。取り扱いに困窮し、仲間に相談したところ『自意識過剰』『ここは、そっとしておくべき』『お前、字下手じゃん』等、有難い忠告を受け、返信は控える事にした。しかし、これが見事に裏目で、お返しが無かった事を彼女は酷く悲しみ、女性陣から総スカンを喰らい、自分が伺い知らぬ所で一つの『恋』が終わっていた。

 

ある日、親友から『今日、中学時代の同級生とボーリングするから、来い』とのお誘い。自分は『ストⅡ』の修練に励みたく拒否したが『いいから、来い!』と、何時に無く強引だ。渋々、待ち合わせ場所に赴くと、そこに居たのは、二人の『女子』だった。すっかり『男』だと思っていたため、かなり『狼狽』する。照れと恥ずかしさが手伝い、碌に会話も無いまま、会合は終わる。しかし、後に聞くと、以前、皆で撮った自分の『変顔』写真を見た同級生が『会ってみたい』と申し出て来たのが発端らしい。そんな『経緯』の説明も無く引き合わせて『お前、せっかくの好意を』とか『いや、ホントに残念だった』等、友達甲斐のある発言に涙がちょちょ切れたものだ。

 

そんな状況に『焦り』を感じたのか、親友が『脱童貞』への待望成就に向け舵を切る。当然、内輪では『一番乗り』の大快挙であり、圧倒的アドバンテージを得るのは間違いない。奴から漂う『暗躍』の気配を感じながら、ある週末の夜、何時も通り仲間の一人と家へ訪れた。

 

『ガンガン』 納屋の引き戸を乱暴にノックする。

『おーい、俺だ』

『ガララ』 引き戸が開き、親友が出てくる。

『何だ、君か!』 は? 君?

『何言ってんだ? 入るぞ』

『いや、今日は帰ってくれたまえ』 くれたまえ? 頭大丈夫か?

『あ、こんばんわ~』 何ぃ! 奥から一人の女子が顔を覗かせる。

『そう言う事だ。わかるな?』 くそォお! 殺意を感じるドヤ顔だ。

 

静かに引き戸は締められた。取り残された男二人は虚しく退散する他無い。その日は、仲間の家で過ごす事となった。深夜まで、自分達は何かを吹っ切るようにゲームに興じた。しかし、とうとう『現実』に追いつかれてしまう。静かにコントローラーを置き、二階の窓から瓦屋根の上に出る。秋の夜空に満天の星だった。二人肩を並べ、体育座りで宙を見上げる。

 

『・・なあ』 仲間が静かに呟く

『ん?』

『彼奴ら、今頃やってんのかな?』

『・・どうだろ』

『一人抜け駆けしやがって、許せねぇ』

『そう言わずに、祝福してやろうぜ』

『は? 本気でいってるか?』

『本気さ!』

その時、一筋の流れ星

 

『イレルマエニイケ イレルマエニイケ イレ、あぁ!』

 

その日、彼女は『女子の日』だったらしい。星よ、借り一つだ。

 

後日、親友は彼女へ麻雀を教え『スッタン』を容赦無く直撃し、振られた。これにて全員、誰も欠ける事無く『未経験』のまま『卒業』を迎える。確かに『悲願』は先送りとなったが、もし、自分達に『彼女』が出来ていれば、あれ程までに『濃い』時間を経験出来ただろうか。仲間内に、色気の無い高校時代を後悔している者は一人も居ない。

以上