3-③.青年期

半生

『テーブルトーク』というゲームがある。

週末に大勢が集合した時は『テーブルトーク』と相場が決まっていた。このゲームは、ストーリーが描かれたルールブックを基に『マスター』と呼ばれる進行役が、己の発想と機転で『冒険者』を独自の世界へ導き、クエストを筋書き通りに完結するのを目的とした、非常に自由度の高い『対話型RPG』だ。

『冒険者』は所定の用紙を使い、各々『職業』を決め、能力値を割り振って、キャラクターを作成する。そして『手書き』で『顔』を書き込む。勿論、まず被る事は無い。全員『拘り』を持って作画するため、キャラ作成だけでも1時間は掛かった。当然、自らの『分身』に『愛着』が生まれる。この『失いたくない』気持ちを最初に意識付けるのが、このゲームにおける『キモ』となる。

『マスター』はルールブックを基に『オリジナルストーリー』を作る。本当に何でも良い。身近な出来事を変換したり、内輪ネタを題材にするのも良い。『目的』と『ゴール』だけ決めて、後は『成り行き』とするか、それとも徹底的に作り込むか、それはマスターをやる者によって分かれた。

先述の通り、このゲームは非常に『自由度』が高い。如何なる発言もOKであり、まずマスターの意図する展開には成らない。寧ろ、自分達はワザと『混沌』させる行動を選ぶのが普通だった。脱線しながらも、上手く『本筋』に乗せて進行出来るかは、マスターの『腕前』に掛かっている。

例えば『君達は、とある酒場でゴブリン討伐の依頼を受けた。住処の洞窟に向かう道は二つに分かれている。右と左、何方に進む?』と、マスターが発言した後に、

『帰る』

と言っても勿論OKだ。但し、ここで取り乱してはイケない。あくまで冷静に『君達は、クエストを放棄して家路に着いた。しかし、その帰り道に巨大な『ドラゴン』が現れた。到底敵うレベルでは無い。あと3秒後に攻撃範囲に入るだろう。3、2、』

『うわ! 逃げる!』

『・・君達は再度、スタート地点に戻った』という風に、即興の『ボケ』と『ツッコミ』を繰り返し、時にはマスターの理不尽に嘆きながら、大騒ぎの夜は更けて行くのだ。

 

そんないつも通りの夜に『見知らぬ』来客があった。

『よう! 久しぶり!』

『おお~ お前か、どうした?』 親友の幼馴染らしい。

『これ食えよ!』 大量のカップラーメンとお菓子にジュースだ。

『マジか! 良いのかよ!』

『おう! 遠慮すんな!』

突然の僥倖に、皆歓喜の嵐だ。その後も、週末には彼からの『差し入れ』が続いた。何と無く『甘受』していたが、必然性の無さに『違和感』もあった。

 

そんな時、親友の親から不穏な『噂話』を聞く。『近所の商店に最近『空き巣』が入るらしい。店の商品が大量に盗まれとる。お前等、何か知らんか?』

『・・知らんな』 そう親友は答えたが、内心はある確信があった。

 

『あいつ・・やりやがった』 呻く様に呟く。

『おいおい、あれ盗品かよ! どうする?』 仲間内に動揺が走る。

『・・俺らで、捕まえよう』

とんでもない展開になってしまった。店主のおばあちゃんには、小さい頃からお世話になっている者ばかり。あまりにも『義理』を欠いた行為に親友は憤慨している様子だった。

何時も盗品を持って来るのは、土曜の夜だ。来る時間より早く、店の周りで待ち伏せして捉え『おばあちゃん』の眼前に突き出す算段となった。

しかし、犯人は『あいつ』と確定している訳では無い。もし、全くの別人と諍いになれば、事態は想定が付かなくなる。結局、行くのは親友と自分の二人だけとなった。

 

そして、決行の夜が来た。今迄見た事無い程の濃霧だった。1m先も見えない。護身用の『エアガン』を持ち、現地に到着後、店の塀裏に潜む。

 

待機して1時間程経過した時、異変が起きる。店に置かれている自動販売機の明かりに人影が映った。濃霧で見えずらいが、そのシルエットだけで親友には十分だった。

『本当に来やがった・・ふざけやがって』 怒り心頭だ。

『あいつ』が、店の窓を開け、進入を試みている時、

『おい!!』 親友の怒号が響く。

『何してる! やってる事分かってんのか!』

『うわ! い、いや、これは・・』 その時、

『あんたら! 何やってんの!』 おばあちゃんだ。

 

同じ様に当たりを付け、様子を見に来た時、たまたま鉢合わせた様だ。これにて『全員』お縄になり、親を呼ばれて『詰問』を受ける。『連帯責任』で自分達も含め、一同、正座の土下座。当然、盗品は食べた分を思い出せるだけリストアップし、全額返金した。今回の事は、おばあちゃんの厚意で胸に収めて頂いたが、何故か学校の先生にまで歪んだ情報が伝わり『今、お前達が学校に居られるのは、俺が黙ってるからだぞ。分るな?』と言われたり、正誤相まって、散々な憂き目に遭った。今後、二度と『リアル・テーブルトーク』は、ご容赦願いたい。

 

それから、20年後、仲間から一本の電話が掛かる。

『今、荷物整理してたら『テープ』が出て来た』

当時『テーブルトーク』を録音する事がよくあった。これは『タイムカプセル』を見つけたと、皆で集まり、酒の肴にする事となった。だが、中身を聞いてみると、再生されたのは、彼女へ向けた『愛のラブソング』だった。爆笑後、一頻り『寸評』した後は、何時もの同じ話で盛り上がる。『テーブルトーク』が話題から外れた事は一度も無い。

以上