2-③.一般職員(録)

仕事

新たな職場は、今迄とは違い、一種異様な緊張感があった。

オフィスは静まり返り、雑談の欠片も無く、各々がパソコンに向って、何かに追われるが如く集中している。邪魔をしない様に足音を殺し、『課長』の前に歩を進めた。

『失礼します。本日から、宜しくお願い致します』

『おお、来たか。頑張ってくれよ』

『噂に高い』お方だ。厳しい『ジャブ』を貰う覚悟だったが、意外に愛想が良く、拍子抜けする。だが、この柔らかな表情を見るのは、これが最初で最後となる。

 

まずは、この部署における、基本的な業務教育を受ける。区分は大きく分けて二つだ。薬品受入や海・陸送で物品を輸送する際の機器運転と、その管理・調整および契約・収支に関わる業務だ。最初は慣れ親しんだ、機器運転業務から入る事になった。流石に今迄の応用が利き、あっと言う間に要領を掴んでいく。そのまま、業務を熟し、何事も無く、3ヵ月が経過した。

 

その日も、陸送で物品を運ぶ監視業務に従事していた。『何だか、やっている事自体は、以前と変わらないな』と、新しい職場に失望し、モチベーションを失い欠けている時だった。

『おい! あっちでトラックが遊んでるぞ!』 突然、課長より叱責を受ける。

『え?』 意味が分からなかった。

『不要な人工が発生して無いかって聞いてるんだ!!』 凄い剣幕だ。

『い、いや、何時も通りと思うんですが』

『チツ! もういい!!』

足早に去って行く。『一体、何なんだ』と、訝りながら業務を継続したが、その時を境に、『OJT』と言うには、余りにも強烈な『指導』が始まった。

 

次の日、課長から声が掛かる。

『おい! ちょっと来い!』 最初からテンションが高い。

『はい!』 足早に駆け寄る。

『来週から、薬品タンク内部の洗浄を行う工事を施工する。その費用・対応手順・委託先を検討後、契約書を作成し、立案しろ!』

一方的に捲し立て、視線をパソコンに戻す。

『え? あ、あの』

『さっさと、取り掛かれ!!』

『は、はい!』

取り付く島も無かった。何をすれば良いのか、皆目見当が付かない。急転直下のプレッシャーに、頭は『バクバク』だった。周りから助力の気配は無く、『触らぬ神に祟り無し』の雰囲気だ。パニック状態で、取り敢えず、過去実績を辿った。その資料を基に、自分なりに費用計算し、立案書を作成する。丸三日掛けて、辛うじて形にした。

『失礼します! 出来ました。ご確認ください』

『・・・』 無言で受取り、明らかな斜め読みだ。

『違う』

『え? あ、あの』

『やり直せ! 時間が無いんだぞ!!』

『は、はい!』

相違点のアドバイスは一切無い。必死で修正するが、何度提出しても『違う』の一言で書類は全て却下された。結局、最後まで承認は得られず、『もういい! これで上に回せ!』と、用意していた立案書を渡される。内容を見ても、大枠では自分が作成したものと変わらない。しかし、そこに拘る時間は無い。手速く上覧して、工事の要領書作成に取り掛かった。すると、

『おい!ちょっと来い!』

『は、はい!』

『来週から、貯蔵タンクの内部を抜き取り、点検を行う工事を施工する。その費用・対応手順・委託先を検討後、契約書を作成し、立案しろ!』

『え?!』

『さっさと、取り掛かれ!!』

『は、はい!』

矢継ぎ早に業務が廻って来る。既に混乱と焦燥の極みにあったが、同じ手順で、立案書を作成する。一回目の経験もあり、最初よりは、短期間で仕上がる。

『失礼します! 出来ました。ご確認ください』

『・・・』 嫌な予感しかしない。

『全然、違う』

『あ、あの』

『2回目だろうが! 何を学んだ! この馬鹿が!!』

怒号がオフィスに響き渡った。質問や反論は一切受け付けて貰えない。書類提出の度に『罵声』を浴びせられ、何一つ結果が出なかった。帰りの車中で悔し泣きした事は、一度や二度ではない。恐らく、自分は『求めていた人材』では無かったのだろう。早くお払い箱にして、次を無心する気だったのかもしれない。それでも、何とか喰らい付き、業務を完遂しようとしていた時、

『おい!ちょっと来い!』

『は、はい!』

『来週から、設備の新設工事を施工する。業務実施における、必要人数を割り出し、その費用・運転要領・委託先を検討後、契約書を作成し、立案しろ! 因みに、この業務は当社として初受注であり、重要案件だ』

 

眩暈がした。自分が潰れるまで、このループは続くのか。先の見えない『無間地獄』に絶望の波が押し寄せる。だが、『変わる』と決めた以上、全てを受け止めて、乗り越えるしかない。この試練が、必然の『成り行き』である事を信じて。

以上