3-⑤.青年期

半生

学生時代は、慢性的な『金欠病』だ。

如何に地道な遣り繰りをしても、何かしらの収入を得なければ、ジュース一本買え無くなる。特に自分達の『主戦場』は、ゲームセンターだ。日々の交遊費を稼ぐため、各々、多種多様な『お手伝い』に奔走していた。

通っていた高校は、余程の『家庭的事情』が無い限り、原則『バイト禁止』である。しかし、背に腹は代えられず『個人的事情』による『小遣い稼ぎ』は、当たり前の様に横行していた。

だが、唯一学校が『公認』していたバイトもあった。それは『郵便局』の配達員だ。年末年始において『年賀状』の対応に人手が必要であり、元旦は多くの学生による、自転車配達員が町の風物詩となっていた。但し、通知表に『欠点』が無いのが条件であり、3学期の期末テストは帳尻合わせの『猛勉強』がお約束だった。このバイト、一見大変そうだが、実際大変だ。決められたルートに則って、地図を見ながら家を特定し、束になった郵便物を齟齬無く届ける。自分の範囲は『激坂』区間で、その公平性に疑問を感じながら、必死で配送していたものだ。また『表札』が無い家や、明らかな『廃屋』等、判断に困る場合も多々あり、慣れる迄は、かなり神経を使う仕事と言える。しかし、その分時給は良く『人気』のバイトである事は間違い無かった。

さりとて、これだけでは、当然『ジリ貧』になっていく。そんな折、親友の親父さんから声が掛かる。どうやら、お仕事を『紹介』してくれるらしい。

 

『お前にぴったりのバイトがあるぞ』

『マジっすか!』

『おう! 稼いで来い!』

『ありがとうございます!』

 

指定の場所に行くと、そこは『鉄工所』だった。自分は工業高校生だが、旋盤が『大の苦手』で『嫌い』だ。普段、親友宅で常にボヤいてるので、親父さんも知っている筈なのだが・・しかし、この期に及んではやるしかない。覚悟を決めて取り組むが結果は散々。老朽化の進んだ古い機械は繊細な操作を要し、まともにネジ切りが出来ない。終いには旋盤を壊す大失態を犯し、バイト代は相殺され、クビになった。

 

それから数日後、また親父さんから声が掛かる。

『今回の仕事は簡単なやつだ。サクッと稼いで来い!』

『え・・ホントですか?』

『おう! お前には特別に紹介してやるよ!』

『はい! ありがとうございます!』

 

指定の場所に行くと、そこは『廃品回収所』だった。特に鉄・銅・アルミ等を回収する会社だ。到着するなり、大声が響く。

 

『お前が今日から来るバイトか?!』

『あ、はい』

『よし、行くぞ!』

『え? あ、はい!』

何の説明も無くトラックに乗り込み、現場へ向かう。着いた先では、大粒の汗を流しながら、放置された鉄片を荷台に放り込む。そして、大型の『ユンボ』をバラす仕事を任命されたが、あるのは火力の低いバーナーのみ。一応、トライしてみるが『ジュウぅうぅうぅうーー・・・って、日が暮れるわ!』おまけに砂まみれになっていて、飛び散り危ない。

『いや、これ無理っすよ!』

『だよなぁ。よし、もういいや。帰るぞ!』

『ういっす!』

帰ってからは、おばあちゃん達と、ひたすら『モーター』をバラしての銅線回収作業だ。汗まみれ油まみれで、人生初の『3K』仕事だった。

『あんた、今日からかね?』 手は止めず喋り掛けてくる。

『はい』

『どんくらいおるん?』

『一応、一週間です』 既に辞めたい。

『そうなんかね。まあ、ねえ・・』

『え? 何ですか?』

『うちで3日持った人、見た事無いのよ』 視線が憐れんでいる。

『・・ですか』

この話を聞いて、逆に俄然やる気が出てしまった。何とか一週間通い、無事『報酬』を得る事に成功した。根性ありと認められ『延長』を懇願されたが、丁重にお断りした。

 

それから数日後、また親父さんから声が掛かる。

『今回は楽だぞぉ』

『・・・』

『ホントだって! 一日店番してるだけ。座ってるだけで良いんだ!』

『・・それは、楽ですね!』

『だろ? 稼いでこぉい』

『はい!』

 

指定の場所に行くと、そこは、とある『デパート』だった。駐車場で雇い主と合流する。

 

『君がバイト君?』

『はい。よろしくお願いします!』

『うん、今日は大変だろうけど、頑張って』

『え?』

どうやら、この人は『アメジスト』やら、何たら石を展示販売しているらしく、そのお手伝いが今日の仕事だった。

『このデパート、運搬用のエレベーターが故障してね。三階までよろしく』

『は?・・これをですか!?』 トラック一杯に大きな石達が並んでいる。

『そう。あれ? 聞いてなかった?』

『あ、いえ』 あ・の・お・や・じぃ

 

当然、間違っても落とす訳にはいかない。細心の注意を払いながら、1時間以上掛けて、青息吐息で販売場所へ運び込んだ。その後は店番だったが、ビックリする位にまったく『売れない』。客自体はそこそこ来るが、大体『見るだけ』だった。それでも、おじさんはどこか『嬉しそう』だ。『売る』より『展示』が目的なのかもしれない。閉店後は再度、トラックへ移送する。柔道部の練習よりキツかった。

 

それから数日後、また親父さんから声が掛かる。

『どうだ! いい仕事だったろ!』

『えぇ! そうですね!』 何だ、この悪気の無さは。

『いや、お前にお勧めの仕事があるん、』

『遠慮します!!』

 

その後、親父さんからの『ご厚意』を全面的に『辞退』させて頂いたのは言うまでも無いだろう。この時期は『社会』というものを垣間見た気になっていたが、所詮『小遣い』を稼ぐのと『生活費』を稼ぐのは訳が違う。『予行演習』を経て、能天気な学生生活の終わりは、もう目前に迫っていた。

以上