何気ない日常でも、時には心に残る出来事が起きる。その第二弾をご紹介する。
【早食い】
その日は、とある居酒屋で忘年会が行われていた。皆、すっかり酔いが回ってテンションは最高潮を迎えており、会社の若手が『タイマン』による、おでんの早食い競争をする事となった。
『よーい・・スタート!』
合図と共に、二人は必死になって熱々のおでんを頬張る。某芸人を彷彿させるリアクションで、場は大いに盛り上がった。戦いは後半を迎え、お互い後は『玉子』を残すのみとなった。この最終局面において、普段地味な方が賭けに出る。迷わず、一気に灼熱の固体を口の中へ放り込んだ。
『おお!!』 この大技に歓声が上がる。しかし、
『ぶおっほ!!』
無理だった。口内より丸のまま噴射された玉子は、テーブル中央にある鍋へ、綺麗な放物線を描き着水した。『返すな、返すな!』総突っ込みに合いながら水を呷る。彼は試合で負けて、勝負には勝った。
【シーツ】
秋に開催される神社のお祭りで『舞う』事になった。まるで慣れない動きに戸惑いながら、約1か月を掛け、何とか一通り形を覚えた。そして、大緊張の当日を迎える。早めに到着し、衣装に着替えるが『重い』『硬い』『くそ暑い』。ジャージとは圧倒的に勝手が違い、大いに焦り始める。何とか慣れようと、必死に反復している時『お囃子』のメンバーが到着した。
『おーす、調子はどうだ?』
『いや、ヤバいっす。全然動けない』
『ん、最初はそんなもんだ』
『こんな事なら、一回、着とけば良かった・・』
『はは、まあ、何とかなるさ』
『じゃあ、俺らも着替えるか』
そう言いつつ、皆、カバンを開け『白衣』と『袴』を取り出した。各々、着慣れたもので『ピシ』っと決まっている。そんな中、一人の楽人が白衣を取り出し、首を傾げている。
『・・・』 白衣を徐々に広げながら、
『おい、これ・・』
『ブワッサ!』
『布団のシーツじゃなーかや!』
確かに小さく畳まれていれば、ちょっと見分けが付かない。シーツは大きく広げられたまま放置され、彼は妻に電話を掛ける。『着れるか! 今すぐ白衣持って来い!』本番前の緊張感は何処へやら。初舞台はリラックスモードで、大きなミス無く終える事が出来た。
【社会の窓】
今、この言葉は『死語』なのか。偶々、会社の同僚と疑問になった。どれ、実際に確かめて見ようと、若い順に声を掛ける事にした。まずは、今年入った『18歳』からだ。
『おい! 社会の窓が開いてるぞ!』
『え? 何ですかそれ?』
『おお~、いや、いいんだ』
『はあ・・』
次は『25歳』だ。机に座ってる奴を見止め、正面から声を掛ける。
『おい! 社会の窓が開いてるぞ!』
『え? あ、ホントだ。良く分かりましたね』
『いや、ホントに開いとるんかい』
確かにコイツは偶に開いている。相手が悪かった。まあ、取り合えず『25歳』位迄は通用する様だ。しかし、今時、何処でこの言葉を覚えるのだろうか。その疑問を解消し忘れてるな。
【眉毛】
高校時代に一人の友人が清水の舞台から飛び降りた。平凡な学生生活に彩りを付け様としたのだろう。散髪に行った際、馴染みの店主へ何時もと違う『注文』をした。
『眉毛を『薄く』してください』
『え!? いいの!?』
『はい! お願いします!』
どうやら彼は『細く』したかったらしいのだが、日本語とは難しい。5分後、見事『一枚刈り』になった眉毛を見て愕然とする。鏡越しに店主と目を合わせるが、お互い『やっちまった』と、後悔しきりだ。しかし、無くなったものは、どうしようもない。次の日、彼は止む無く、恐る恐る登校した。当然、この奇行は学年中に知れ渡り、爆笑の渦を巻き起こした。周りから『珍獣』扱いされ、大ピンチに陥っている。このまま窮地の友を見捨てる訳には行かない。我ら仲間が救わねば、誰が救えると言うのか。皆で、この状況を打破すべく、解決策の模索に挑んだ。
まず、マジックで塗ってみる。⇒ 面白くなった。
ならばと、可愛い絆創膏を張ってみた。⇒ 更に面白くなった。
駄目だ。これは最早、人智の及ぶところでは無い。努力の甲斐虚しく、すかっり彼は拗ねてしまった。だが、三日も経てば風景に溶け込み、当たり前になってしまうから『慣れ』というものは恐ろしい。
床に就けば布団の中で、今日一日を振り返るのが日課だ。どんなに些細でも『何時もと違う何か』をしていれば、それなりに安眠出来る。明日は、如何な未来が待ち受けるのか。若干不安が勝るのは、悲しき凡夫のサガだろう。
以上