3.千点棒

その他

何時もとは違う、珍しい面子で卓を囲んだ。

高校時代は、週末となれば親友の家に赴き、離れの納屋で屯する事が通例だった。集まった人数で、遊びを決めるのがお約束であり、4人以上揃えば、大体『麻雀』に興じる場合が多かった。

連休初日の土曜だけに、思いの外、部屋は賑やかだ。自然と麻雀牌に手が伸び、洗牌の音が鳴り響く。その囃子に引き寄せられたのか、一人の珍客が訪れた。

『うおーい、やっとるな』 ランニングシャツとブリーフ一枚のあられも無い姿だ。

親友の親父さんで、家の主だ。自分達からすれば、夜遊びに何も言わず、溜まり場を提供してくれる『スポンサー』的な存在で、基本的に頭が上がらなかった。

『お邪魔してまーす』 一同、声を揃える。

『・・何しに来た』 親友だけが、怪訝な顔で、拒絶反応を示す。

『儂も麻雀の予定じゃったんだが、キャンセル喰らってな。混ぜてくれぇや』

『はあ?! 冗談だろ?!』 息子としては、当然の反応だろう。

『ああ! どうぞ、どうぞ!』 周りは、ここぞとばかりに、ご機嫌を取る。

納得行かない親友を余所に、『親父さん』を交えた、変則の夜が始まった。

 

淡々と局を重ねて行くが、親父さんは流石に強く、一人勝ちの様相を呈す。『だから嫌なんだ』と、親友も呆れ顔だ。その空気も相まって、徐々に白けムードが蔓延し始める。

その時、

『あれ? 儂の『千点棒』知らんか?』 急に突拍子もない言葉が飛び出す。

『え?』 全員が自分の点棒箱を確認する。

『いや、自分ら、間違い無いっすね』 各々、持点は合っている。

『あれぇ・・どこ行ったんだ?』 周りを探すが、見つからない。

『お! ここにあったーや』

そう言いながら、親父さんは自分の『ブリーフ』の中から、千点棒を一本取り出した。

 

・・いや、雰囲気を和ませる、渾身の『ボケ』だろうが、これには全員、『唖然』だった。しかし、スポンサーの機嫌を損ねる訳にも行かず、更なる沈黙で、場の気配は一層、悪くなった。

そして、遂に親友が『ブチ切れる』

『ふざけんな! どう考えても、手前の『百点棒』に当たってるだろうが! 石鹸で洗って来い!!』

『なにお! 貴様!! 儂のは『万点棒』じゃ!!』

取っ組み合いが始まる。何という『低俗』な諍いだろう。誰も止める気が起きない。素早く卓を移動して、親子の争いが終わるのを待つ。

最後は親友の『一本背負い』が炸裂して終劇。親父さんは背面を強打して、さめざめと泣いている。

『くそう、親を投げ飛ばしくさって・・けど、儂は嬉しい、こんなに強く育ってくれて・・』

如何にも『親父越え』を果たした息子へ、『感涙』の体を醸しているが、涙の理由は、単に背中が『痛い』だけだろう。騒ぎも一段落し、麻雀を再開する。

 

その後も親父さんは絶好調で、ペラも軽やかに回り出す。やれ『儂の周りは仕事もせんで、フラ付いてる奴ばかり』とか、『碌に借金も返さんで呆けとる』だの、『麻雀すればイカサマは当たり前』等、仲間内の恥を饒舌に語り捲った。

そして一言、言い放つ。

『儂は最低の人間じゃが、最低の中では最上級じゃ!!』

 

・・寝惚けた発言だが、そう言われると、この『パンツから千点棒出す』おっさんが、少しマトモに見えるから不思議だった。

以上