2.ボルダリング

趣味

いつも通り、何もする事が無い休日だ。

車で徘徊していると、古い馴染みのビルに意外な看板を見つけた。『ボルダリング』と、表記されている。

こんな所でやっているなんて聞いた事が無い。何かの間違いだろうと思いながらも、一応、立ち寄ってみる事にした。

二人の娘と公園に遊びに行った時、遊具の意図を無視して、登り降りに熱中する様子から、『ボルダリング』は喜ぶかも、と思っていた矢先だった。

訝りながら、ビルの3階に上がる。フロアの一角に・・あるじゃないか。本当にやっている。中に入ると、カラフルな突起が付いた、反り立つ壁がある。一目で『ムラッ』と来た。どうやら、まだ開店一年目で、知る人ぞ知るスポットの様だ。

『いらっしゃい。初めてですか?』マスターから声を掛けられる。

『はい。凄いですね。こんな店があるとは知らなかった』

『一念発起してね。よかったらどうですか?』

『え?!』

自分がやる発想は無かった。『子供のため』と、思い様子を見に来たが、取り敢えず試してみるのも悪くはない。それに、これでも『柔道黒帯』だ。引く力には多少の自信があった。

まずは、専用のシューズを借りる。爪先が細く、ゴム製だ。少しキツめのサイズで良いらしいが、最初は『痛い』。靴に足を捻じ込んで、準備完了。『さあ、やったるか!』と、適当に登ろうとした時、

『じゃあ、まずはこのコースから、行ってみよう』

『コース?!』

『ボルダリング』は、壁を好き勝手に登るのでは無く、課題によって決められた突起を使い、完登を目指すスポーツだ。因みに突起の事を『ホールド』という。このホールドには多種多様な形があり、まともに『掴める』ものは無い。指を引っ掛ける、抓む、掌で押さえる等、兎に角『力が入らない』。単純な腕力だけでは、どうにもならないのだ。

この事を知らない『ド素人』の自分は、得意気に腕力で挑み、無残に落ちていく。ボルダリングは一見するとパワー競技だが、実は、『頭脳』も重要だった。正しい手順とバランス・姿勢でコースを攻略すれば、『力』は最小限で良い。だが当然、最初はノーヒントだ。自分で悩み、落ちまくり『これは絶対無理』と思った所で貰う『一言』で、劇的に登れる様になる。苦労を重ねて、ゴールを両手で掴む快感に、すっかり嵌ってしまった。

その日からは、2回/週でジムに通う様になる。慣れてくれば、必然的にコース難度も上がり、登る壁も変わってくる。壁にも垂壁・斜壁があり、それぞれ趣が違う。

垂壁は、バランス・手順・体重移動が重要で、斜壁は、指力・脚力・瞬発力・体幹・スタミナが必要になってくる。因みに良く思われがちだが、ボルダリングに『握力』は要らない。男性の競技選手でも、測定値が40kg前後は、当たり前だ。

まず、垂壁でボルダリングの基本を学び、斜壁に挑む事になるのだが、ここからは『基礎体力』の勝負となり、運動不足の中年が、急に体を鞭打っても限界はある。焦って『無理』をしない事が大切だ。それさえ守れば、このスポーツは、とても良い運動になる。個人差はあるが、インナーマッスル主体の全身運動であるため、体全体が引き締まる。道具は専用のシューズだけで、お金も掛からない。ゴールの快感は、ストレス解消にもってこいだ。今後も『年寄りの冷や水』にならない様、上手に関わって行きたい。

 

ボルダリングを体験して思うが、やはり、壁を登るのは大変だ。難しければ、苦痛に挫折し、落ちて怪我をするかもしれない。しかし、簡単だとモチベーションは上がらず、達成感も無い。とは言え、いつも自分に見合う難易度の壁がある訳でもない。チャレンジ精神を忘れず、一歩先への努力が困難な壁を克服する切っ掛けになるのだろう。常に結果が出るとは限らないが、壁を乗り越えるための行動には、大きな意味がある。登る分だけ視界は変わっていく。もっと素敵な景色が見れる事を信じて、無駄になるかもしれない努力を、今日も少しだけ積み重ねる。

以上