あのゲームセンターで起きた、様々な喧噪の日々は、今も尚、強く記憶に残る。
当時、『ゲーセン』と言えば、『ヤンキーグループ』の溜まり場となるのが通常だ。しかし、その聖域に集うのは、我ら『オタッキー軍団』だった。しかも、学校の『ヒエラルキー』最下層である、このオタク達は、ヤンキーグループから、何故か『一目置かれる』存在でもあった。
自分達が、この一団に加入して、1ヵ月が経過していた。
そこには『ストリートファイターⅡ』を極めんと、鎬を削る漢達がいた。このゲームは、当時のゲーマーを最も熱狂させたコンテンツの一つと言って過言は無い。個性的なキャラクターを使って相手を倒す『格闘ゲーム』の先駆けで、特に熱いのは『対人対戦』だ。初期の頃は、1台に操作盤が二つ設置され、対戦は横並びで『肩寄合う』のが普通だった。お互いが、ゲーム代とプライドを賭けて火花を散らし、時には勢い余って『リアルファイト』に発展する事も珍しく無かった。だが、この一団において、『喧嘩』はご法度であり、破れば『追放』の厳罰が待っていたため、ゲームセンター特有の殺伐さは無く、純粋にゲームを楽しむ雰囲気に満ち溢れていた。
しかし、悲しいかな、『外敵』によって、その平和は打ち壊されてしまう。
その頃、高校を中退した『超ワル』が、『暴走族』を結成して暴れ回っているという噂が流れていた。その時は『自分達には関係無い』と、頭の片隅に置いている程度だったが、早々に関わり合いを持つ羽目になる。
ある日、いつも通り、親友と『肩寄合って』対戦に興じていた。近くで仲間が一人、その様子を観戦している。
『・・ガララ』 引き戸を開ける音がした。
多くの人影に一瞬で囲まれた気配を感じる。周りを見渡すと、近くにいた仲間は既に居ない。その代わりに、多勢の『強面』に完全包囲されていた。
『・・しまったぁ』
時、既に遅し。二ヵ所の出入口は固められ、一際『ガタイの良い』リーゼントが、ニヤ付きながら、親友の隣に座った。彼奴は未だ、状況に気付いていない。
『おい・・お前、どこ校や?』
『は? 県高!』 ゲームに集中している。 その刹那、
『県高です、じゃろーが!!』
ドカ、ボカ、ドコ、ボコ、ガコ、ベコ、ズコー
予想通りの展開だ。親友が殴られる衝撃を全身に感じながら、『何という重い拳だ、もし自分が『1P側』を選んでいたなら、これを俺が喰らっていたのか』と、他人事の様なセリフが、瞬時に頭を過った。
一頻りの儀式を終え、お定まりのセリフが放たれる。
『金出せや』
『ありません』
本当に無かった。今のゲームが、最後の金だった。飛んで跳ねて、財布を見せて、『無実』を証明した。
『チツ! 行くぞ!』
一斉にバイクで去って行く。冷静に見ると8人いた。俺らに8人? オーバーキル甚だしい。その後、戦犯会議が行われる。
『おい、なんで教えない』 親友が恨み言を吐く。
『無理だろ。却って刺激するだけ』 判断は間違ってない。
『て言うか、お前黙って逃げたろ!』 ゲームを観戦していた仲間へ問い質す。
『すまん、もう手遅れだった・・』 そ、そうか、じゃあ、仕方無い。
奴らはきっと、又来るだろう。皆で次の対策を考えた。だが、不思議とゲーセンを去る発想は誰にも無かった。
結局、累計3度の襲撃を受ける。その他にも『タイマンなら負けない喧嘩自慢』、『最強の2年生コンビ』、『とても怖いデブ』、『警察』等、数々の難敵に対して、『謝る』『逃げる』『守る』のコマンドを駆使して、ほぼ『無血』で切り抜け続けた。
実情は、情けない醜態を晒し捲っていたが、その様子を見た『ヤンキーグループ』からは、『彼奴ら、意外に修羅場を潜ってる』と、好印象を与える結果になっていた。
常に『不戦』を貫いたのは、団員心得の順守だけでは無い。もし、諍いの中で自分達が反撃すれば、新たな憎しみを生む事だろう。『そうだ、俺達が『争いの連鎖』を断ち切っているのだ』と言い聞かせ、泣き笑いで過ごした、青春の一ページだ。
以上