1.文房具店

その他

東京駅での出来事。

その日は、組合で東京へ赴いていた。国会議員との会合を経て、国会議事堂や国立図書館等の見学を終え、帰路に着く所だった。

田舎者である。東京ともなれば、街はおろか、駅ですら迷うには十分だ。最後にお土産を買って帰る算段となったが、あまり時間が無い。既に改札を通ってしまっていて、どこから出て良いのか解らない。一回出てしまえば、またどこから入れば良いのか解らなくなる自信があった。まあ、駅中でもお土産を買うには、十分事足りる。新幹線口を見失わない様、適当に散策する事とした。

 

流石に店は幾らでもある。試食をするが、どれも美味しい。最近のお土産は、既にスイーツの域に達している。お饅頭なんか逆に無い。流れ流され、何時の間にか本屋で立ち読みする始末。いや、時間無いんだって。我に返り、何とか両手一杯にお土産を購入した。

やれやれと一息つくが、肝心な事に気付く。娘・姪っ子から受けた特命事項を辛うじて思い出した。

特命は『東京っぽい、消しゴムを買って来て』だ。

この頃は、消しゴムのコレクションに凝っていて、出先では必ず『っぽい』ものを購入するのが、お約束となっていた。

この特命に応えるべく、再度、散策を開始する。しかし、流石に『文房具店』なんか駅中にあるのだろうか。あっても少数だろう。時間の無い中、適当に歩き回ってもタイムオーバーは目に見えている。

ここは、『インフォメーション』しかない。

廻りを見渡すと・・あった。思いの外、直ぐに見つかった。これ幸いと駆け寄る。

インフォメーションの綺麗なお姉さんに息を切らしながら聞く。

『すみません、 このフロア、 出ずに文房具店、 ありませんかね』

『はい、少々お待ちください』 ニッコリと微笑み、フロアーの地図を確認し始める。

お姉さんだけに探させるのも、申し訳ない。上からそっと覗き込み、一緒に地図を確認する。

お姉さんは指差しでフロアーの左側を探している。なら、自分は右側だ。視線を送って行くと・・あった!右奥に『文房具店』と表記されている。いやぁ、流石は東京だ。駅中にすら文房具店があるか。只、一生懸命探してくれているお姉さんを差し置き、『ありました』ってのも何だかな。お姉さんが、左側に無い事を確認し、右の確認に入ったのを見て、発見するのを待つ事にした。

右側を指が伝う。もう少し・・良し、『文房具店』に指が差し掛かる。

あれ?通り過ぎた。そのまま、スタート地点に指が戻った。

『申し訳ありませんが、このフロアーには御座いません』

少し耳を疑う。確かに地図の上には、ある。

『あの、ここに文房具店とありますが』 指を差して確認する。

『あ、いえ、ここはディズニーを取り扱ってはおりません』

『は?!』 『・・・』

『あ! いや、『出ずに』です。このフロアー出ずに、文房具店に行きたい』です。

いやぁ、そう来たか。ナント微笑ましい話だろう。『私ったら、フフッ』みたいなリアクションを期待したが、

『ハッ!』・・乾いた笑いだった。いや、目は笑ってなかった。

そうですよね。毎日、聞きまくるワードですもんね。滑舌悪くてすみません。お疲れ様です。

無事、『っぽい』消しゴムの購入に成功して帰路へ着く。インフォメーションのお姉さんのお蔭で、娘・姪っ子に面目を保つ事が出来たというお話。

以上