緊迫の試用期間が終わった。
教育内容は殆ど記憶に無いが、その『真面目な勤務姿勢』から、正社員として迎えて頂く事になった。しかし、正式採用後の『適当な勤務態度』には、会社側も『失望』したのではないだろうか。
当時の自分は、先輩方に言わせると『世の中を完全に舐めていた』らしい。だが、実際は『舐めて』すらなく、本当に『何も考えて無かった』。仕事も只、教えて貰った事を表面上、熟すだけでその影響やリスク等、一切考える事無く、完全にアルバイト感覚だった。そんな勤務態度で、何時までも平穏無事に過ごせる訳も無く、数々のトラブルを起こしてしまう。
同期が、ある設備を運転している際、『居眠り』が原因で機械を損傷させてしまうトラブルを起こした。これは、最も起こしては行けない事故の一つで、上長から何度も注意喚起されていた。同期はこっ酷く叱られ、始末書を書いた。先輩から『お前は、ある意味ついている。同期がやったのを見たなら、絶対やらんだろ』と言われ、『当然です』と自信満々に返答した。しかし、数日後、『居眠り』が原因で全く同じ事をやらかしてしまった。こんな短期間に2連発は過去例が無く、先輩方は『怒り』より『呆然』だった。勿論、こっ酷く叱られ、始末書を書いたが、周囲からは『あれ?こいつ、もしかしてヤバい?』と、徐々に評価が変わり始めていた。
このトラブルを境に、張り詰めていた緊張の糸が切れてしまい、周囲に多大なご迷惑をお掛けして行く事になる。
まず、3回/週ペースで寝坊する様になった。先輩方には、目覚まし3台強制設置やモーニングコール等、対策を施して頂いたが、中々、病は治らず、定時に来ない事が当たり前になる。
施設の水洗作業時、ホースの水を止め忘れ、辺り一面、水浸し。機械がショートして、総動員で1日補修に追われる。
ある講習の日時を失念する。電話を貰い、慌てて出席。『一人昼の部か!』と、大勢の前で叱責を受ける。
資格試験を受けている際、昼休みにパチンコへ行き、連荘する。そのまま、試験を放棄して15万円の勝利を収めるが、当然、バレて叱られる。
『異音の連絡があった。現場を見てこい』と言われ、確認に行ったが、音に気付かず、『異音ありません』と返信する。それでも不安に思った先輩が確認した所、機械が火を吹いていた。『この音が聞こえんのか!』と言われ、改めて聞いて、やっと気付く。確かに煩い。ふ~ん、これ駄目な音か。
夜勤で休憩時間に飲酒する。真っ赤な顔で引継ぎして、バレる。罰として、最もキツイい肉体労働で汗をかき、酔いを覚まして帰る。
夜勤の休憩時間に夜釣りに行く。思わぬ大物を釣り上げたので自慢したくなり、持ち帰り捌き、皆に得意満面で振る舞う。賄賂が効き、この件に関しては、不問となる。
『操作禁止』と札が張られているのに、起動時間だからと、ワザワザ札を剥がして機械を運転する。偶々、人は居なかったため、大事には至らなかったが、先輩より、これは本当に危険である事を半泣きで指導される。
歓迎会で酒に酔い、会場にあった40万円の壺を割る。会社ごと出禁になる。
車の免許を持っていなかったため、自動車学校へ通う。仮免を取り、会社構内で勝手に練習し、新車の軽トラをぶつける。毎日洗車し、大事にしていた先輩の落胆した表情は印象的だった。また、本試験の際、試験会場へ送って貰い、『終わったらポケベルに1,2,3と入れろ。迎えに行く』と言われ、終了後、ポケベル送信したが、待つ時間に耐え切れずパチンコに興じてしまう。すっかり熱中していた所、迎えの先輩が『青い顔』で『良かった!ここに居たか!』と安堵の表情を浮かべる。何でもポケベルには『3』とだけ入っており、待ち合わせ場所にも居ない。『3?・・まさか、さよならか!?』と、試験に落ちて早まったと勘違いしたらしい。まかり間違えば、大騒動に発展したかもしれなかった。因みに、試験は落ちていた。
正直、これでも一部であり、周囲の評価は『出来る奴』から『要注意人物』に変わっていた。幾ら『新人』とは言え、よくぞ最後まで、見捨てずに叱り続けてくれたものだ。その根気には、『感謝』しか無い。
4年間叱られ続け、『要注意人物』も多少マシになった頃、支社での丁稚奉公も、終わりの時が近づいていた。
以上