その他

2.たぬき

それは、キンモクセイが香る秋の夜だった。体を動かすには、良い季節だ。日課の自転車通勤で、終業後、心地よい風に吹かれながら、何時もの道で家路に着いていた。既に、夜の帳は下りている。田舎の道は細く暗い。街灯も疎らで、道中は自転車のライトを頼りに...
趣味

2.ボルダリング

いつも通り、何もする事が無い休日だ。車で徘徊していると、古い馴染みのビルに意外な看板を見つけた。『ボルダリング』と、表記されている。こんな所でやっているなんて聞いた事が無い。何かの間違いだろうと思いながらも、一応、立ち寄ってみる事にした。二...
生活

1-②.離別編

壊れて飛散した破片を集める様な日々を送った。元通りには戻らないと確信しつつ、それでも足掻き、時には分かり合い、そしてまたすれ違う。次第に気持ちは離れていった。『自分に逆らってはいけない』、『自分の言う事は絶対だ』、この思いが強すぎて、反論を...
仕事

2-①.一般職員(録)

緊迫の試用期間が終わった。教育内容は殆ど記憶に無いが、その『真面目な勤務姿勢』から、正社員として迎えて頂く事になった。しかし、正式採用後の『適当な勤務態度』には、会社側も『失望』したのではないだろうか。当時の自分は、先輩方に言わせると『世の...
半生

2.少年期

ピカピカの一年生だ。進学した中学校は『校則』で皆が坊主頭だった。桜並木が綺麗な古びた木造の校舎で、何もかもが時代遅れと言ってよかった。今年が最後と言われ続けた、先代からの愛着を受け継いで、新しい学生生活が始まった。背は前から二番目。体格は小...
その他

1.文房具店

東京駅での出来事。その日は、組合で東京へ赴いていた。国会議員との会合を経て、国会議事堂や国立図書館等の見学を終え、帰路に着く所だった。田舎者である。東京ともなれば、街はおろか、駅ですら迷うには十分だ。最後にお土産を買って帰る算段となったが、...
趣味

1.メダカ

独りもんとなり、まず思い付いたのは『ペット』である。確かに寂しさを紛らわすには、都合が良いかもしれない。だが、一旦飼い始めれば、最低限の『責任』は発生する。この『責任』が重く、二の足を踏んでしまう。自分的にベストなのは『購入が安価』、『設備...
生活

1-①.離別編

『・・もう、無理』 第一声だった。馴れ初めは、友人の紹介によるもの。あの頃は、今では考えられない位、盛欲的だった。知人・友人に片っ端から『良い人が居たら紹介して』と必死に種蒔きをしていた。その甲斐あって、妻となる女性と知り合ったのだが、正直...
仕事

1.新入職員(録)

ここに入社出来たのは、運が良かったと言えるだろう。高校の成績からは、分不相応な会社へ潜り込めたと思っている。地元採用という形での入社だが、まだ、この時は働くべき場所が無い。将来的に支社が出来るのを見越しての採用だった。取り敢えずの丁稚奉公で...
半生

1.幼年期

父親の顔は知らない。物心ついた時には、母親と弟の3人暮らしだった。いや、一度だけ写真を見た記憶がある。思えば、今の自分と似ていた気がする。離縁の理由は父親の不貞らしいが、長年見る彼女の動向からすると、真偽の程は解らない。若くして二人の子供を...