1-①.離別編

生活

『・・もう、無理』 第一声だった。

 

馴れ初めは、友人の紹介によるもの。あの頃は、今では考えられない位、盛欲的だった。知人・友人に片っ端から『良い人が居たら紹介して』と必死に種蒔きをしていた。

その甲斐あって、妻となる女性と知り合ったのだが、正直、自分の方はタイプでは無かった。顔合わせから1週間後、『取り敢えず』という若気の至りで始まった付き合いだった。

最初の頃は、とても良く尽くしてくれる彼女であり、自分も優しい彼氏だったと思う。しかし、彼女の寛容さに甘え、やらかしてしまう。

コンパで出会った『タイプ』の女性に熱を上げてしまったのだ。彼女の眼前で携帯を弄りまくって、会話も上の空、浮気は明白だった。結局、相手が人妻であった事が発覚して撃沈。特に何事もなく終わったかに思われたが、お定まりの携帯チェックに遭い、修羅場となった。

しかし、結果的にみれば『何も無かった』事を訴え、情緒酌量を求めたが却下。彼女曰く、『気持ちが浮ついた時点で浮気』であり、何か或る無しではないそうな。もっと言うなれば『対象が人に限らず、例え趣味でも自分以外に強い興味を抱けば同じ』と来た。いや、マジか。これ全女共通の理論なのか?

納得は行かないまま、平謝りでなんとか終結、したかに思われた。しかし、この1件が後に、あれ程までに重く圧し掛かろうとは、この時は想像も付かなかった。

 

とある日、彼女から『友人に彼氏を紹介して欲しい』との頼みを受け、丁度フリーだった知人を紹介した。

最初は友人が一人では恥ずかしいからと、自分抜きの3人で遊んでいた。しかし、どうも雰囲気がおかしい。結局、友人に紹介したは良いが、自分の方が気に入ってしまったらしい。元々、裏切られた仕返しを望む気持ちもあった様だ。

『早期に気付き、何事も無く別れを回避出来た』と、この時は思っていた。

彼女の行動に危機感を感じたのか、自分はこの頃『結婚』を焦り始めていた。この事を友人に相談すると、何故か多くが『反対』した。しかし、この反対が却って気持ちに拍車を掛けた。

周りの反対を押し切ってプロポーズ。無事承諾を得て、結婚に向けて準備が進んだ。

親同士の挨拶も済み、披露宴に向けて綿密な打ち合わせが進行する。しかし、ある日の夜、『私はあなたに相応しくない』と突然号泣。これがマリッジブルーかと慰めたが、せめてこの時、気付くべきだった。

披露宴の日には彼女もすっかり立ち直り、練りに練った披露宴は盛大に幕を閉じた。最後のお見送りの時、『辛いことがあったら今日を思い出すんよ』との言葉を親戚より頂いたが、その時は露程も響かなかった。

新居に引っ越し、荷解きも終わり新婚生活がスタートした。この時は幸せな未来しか見えない。だが、その3日後、呆気なく全てが崩壊する。

夜、目が覚める。何か虫の知らせのような違和感。妻の枕元に置いてある財布の中を何気なく検める。小銭入れの隅に小さな小さな物体。3mm四方程度か、紙に包まれている。『なんだこれ』 紙を解いてみると携帯の記憶チップの様だ。『何故こんな物が』 訝りながら自分の携帯に差し込み中身を見る。

すると、記憶チップに残されていたのは、以前、紹介した知人との情事が赤裸々に語られるメールの遣り取り。

本当に眼が廻った。

妻を叩き起こす。問い正すも唯々、謝るばかり。これでは話にならない。深夜だが関係ない。知人に電話し、問い正す。知人もひたすら平謝り。此奴も駄目だ。『それで周囲が反対していたのか』、『俺以外、全員知って居たのか』、『なぜ、こんな物を何時までも持っている』、『結婚前に打ち明けるのが人の道だろ』様々な思いが駆け巡る。あれ程、混乱した事は無かった。

 

明け方、波は収まる。

 

この先、一体どうなるんだ。

以上