5.小話集-①

その他

何気ない日常でも、時には心に残る出来事が起きる。その第一弾をご紹介する。

 

【ATM】

何時も贔屓にしている銀行の『ATM』に、とある『特殊詐欺』対策が施された。それは、店の出口側に設置された180cm台の『警察官』パネルが、訪れたお客さんに向かって『ちょっとまってください! その振込大丈夫ですか?』と、大音量で語り掛けると言ったものだ。それを知らずに何時も通り、只、ATMでお金を下ろし、帰ろうとした時、

 

『ちょっとまってください!』

『うわわ! し、しまったぁ! い、いや、しまってない、しまってない』

『何なの・・もう。。』

て言うか、これが出口側にあるっておかしくない?

 

【マスク】

コロナ対策で、今や『マスク』着用は当たり前の風潮だ。会社からの支給分が遂に切れてしまい、止む無く自腹で購入する事になった。兎に角『安価』な商品を求め、某量販店に赴く事とした。現在は、既に流通も落ち着き、在庫不足は解消されているため『探す手間』など考えていなかった。何なら、店先で手に取る事が出来るだろうと安易に考え入店した所、意外に見つからない。仕方なく、忙しそうな店員を捕まえ聞いてみた。

『すみません』

『はい、何でしょう』

『あのぉ、マスクってどこにあります?』 我ながら情けないものを感じる。

『え!?』 うわぁ、想像通りのリアクション。

『マスクです』

『いやぁ、それはもう! 至る所にございます!』 ええ、そうでしょうけども・・

『例えば、あの辺!』 指差しで、ぐーるぐる。うん、分かり易い。

『どうも』

ご教授通り行ってみると、意外にマスク売場の規模は小さい。すっかり隅に追いやれている。こう見ると、騒動も落ち着き始めているのかな。

 

【お勘定】

ある週末、地元に戻った自分への歓迎会が行われていた。皆、テンションは高く、楽しい歓談に酒量は増す一方だ。この支社は、全体的に年齢が『若い』。思えば10代の子と飲むのは、あまり経験が無い。今の世代は『大人しく、控えめ』な印象だが、飲めば自分達の若い頃となんら変わりはない。大いに騒ぎ、盛り上がっている。全員すっかり酔いも回って、宴も酣となり、一旦締める事となった。

『おーい、じゃあ、店員さん呼んで』

『はい!』 出口付近の若手が呼応する。

『すみませーん!』 引き戸を開けて大声で叫ぶ。

『もう、飲めませーん!』 えぇ!?

店員さんも偉いもんで、

『はあぁいぃ~』

最近のお勘定って、こうなのか?

 

【マッサージ】

ロードバイクにて、遠征したホテルでの出来事。経験の無いロングランで、身体は疲労の極致だ。明日は同じ距離を戻るため、今晩の内にある程度『回復』しなければ、完走するのは困難だろう。そう思い取った手段は、ホテルの『マッサージ』だ。多少割高だが、贅沢は言ってられない。早速、受付に連絡し予約を取る。そして、時間通りにノックが鳴った。

 

コンコン

『はい』

『ご予約頂いた、マッサージの者です』

『あ、はい。どうぞ』

『失礼します』

入ってきたのは、小太り初老の『女性』だった。この重労働を任せるには少し『罪悪感』があったが、向こうも『プロ』だ。遠慮はいらないだろう。

『じゃあ、お願いします』 ベットに仰向けになる。

『はい。分りました』 にこやかな応対だ。

施術に入ると、無言で小さな体を揺らし全力で揉む。流石に『上手い』。全身の疲れも手伝い、うとうと微睡み始めた。すると、

 

『ゼエ、ゼエ、ハア、ハア』

薄い意識の中、荒い呼吸音が耳に着く。大分息が乱れてきたようだ。やはり体力仕事だ、無理も無い。気になってしまって、完全に目が覚めてしまった。それと同時に、足に何か落ちる感触に気付いた。

 

『ポト、、ポト、、』 うん? 何だろう。訝り、おばあちゃんを薄目で見る。

『ハア、ハア、ゼエ、ゼエ』 顔面は完全に汗だくだ。

足に落ちていたのは、彼女の『汗』だった。本人は気付いて無い様子だ。一生懸命に落ちた汗を足に擦り込んでいる。『・・そのローションは、いらんわぁぁ』。しかし、その頑張りを見ると言えない。恐らくは幾多のお客さんが同じ道を辿ったのだろう。だが、お陰様で疲労は取れた。ありがとうございました。

 

 

些細な事も受け止め方次第で、人生を『豊か』にして行くだろう。全てを前向きに解釈出来れば、ネガティブな事案も『糧』となりうる。だが、理屈では分かっていても、そこまで『達観』するには、まだまだ修行が足りないなぁ。

以上